雇用調整助成金について


新型コロナウイルスの影響によって売上が減少した事業者が、従業員を休業させ、休業手当を支払った場合、その一部について雇用調整助成金の支給を受けることができます。

雇用調整助成金について、できるだけ分かりやすく解説いたします。

※この記事は、2020年5月20日時点の情報に基づくものです。

1 雇用調整助成金とは?

雇用調整助成金は、景気の変動など経済上の理由によって急激な事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るために従業員を休業させるなどして雇用調整を行った場合に、休業手当の支払いに要した費用を助成する制度です。

この制度は、新型コロナウイルスの影響が出始める以前から存在していましたが、2020年1月24日から7月24日までの間は、支給要件などが緩和される特例措置が適用されます。さらに、厚生労働省は、2020年4月1日から6月30日までを緊急対応期間と位置付け、助成内容や対象を拡充しています(中小企業の場合、助成率が最大100%になるなど)。

2 助成金の支給対象となる事業主とは?

雇用調整助成金の支給を受けることができるかどうか、まずは以下の2点をご確認ください。

1)雇用保険の適用事業主であること

2)新型コロナウイルス感染症の影響により、売上高または生産量などが5%以上減少していること(対象期間の初日が4月1日から6月30日までの場合。)

Q:どの期間の売上を比較して5%以上減少していればよいのか?

原則として、最近1か月間の売上と、前年同月の売上げを比較します。「最近1か月」とは、「計画届」を提出する月の前月を指します。例えば、計画届を6月に提出するなら、5月の売上と、前年5月の売上を比較します。

前年同月と比較して5%以上減少していなくても、前々年同月や、直近1年間の適当な月との比較により、支給が認められる場合があります。

※売上高や生産量の比較について詳細はこちら

3 助成金はいくら貰えるのか?

従業員が概ね20人以下の小規模事業主か、それ以外かによって助成金の計算方法は異なります。

1) 小規模事業主の場合(従業員が概ね20人以下)

小規模事業者の場合には、実際に従業員に支払った休業手当の総額に、助成率をかけて計算します。
助成率は、いくつかの条件によって67%から100%の間で決まります。助成率の計算方法は、申請用のエクセルシートで確認することができます。

注意:1人1日あたり8,330円が上限

上の計算によって算定した1人1日あたりの金額が8,330円を超える場合、上限を超えた分は助成金が支給されません。
ただし、上限額は15,000円程度まで引き上げることが検討されています。

なお、小規模事業主が、以下の2)の方法で計算することも認められています。

2) 小規模事業主以外の事業主の場合

小規模事業主以外の事業主については、助成金の額は、以下の計算式で求められます。実際に従業員に支払った休業手当に対して、助成率をかけた金額が支給されるわけではないことに注意してください。
また、1人1日あたり8,330円の上限額は、小規模事業主の場合と同じです。

※助成率の詳細はこちら

4 助成金申請の手続きは?

助成金の申請手続や必要書類も、小規模事業主かどうかによって異なります。

1) 小規模事業主の場合(従業員が概ね20人以下)

(1) 休業の計画

まず、助成金の支給を申請する対象期間を定めます。助成率の拡大など、新型コロナウイルス対策の特例の適用を受けるためには、対象期間の初日が4月1日から6月30日の間であることが必要です。

次に、対象期間の中で、誰を、いつ、どの程度休ませるか、具体的に計画を立てます。厚生労働省が様式として公表している計画表が参考になります(計画表の提出は必要ではありません。)。

また、休業手当率を60%から100%の間で定めます。個々の従業員に支払われる1日あたりの休業手当の額は以下の計算式によって決定します。

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Q1:事業所の全従業員を一斉に休業させる必要があるか?

特例措置では全従業員を一斉に休ませる必要はなく、同じ職種の従業員を交代勤務にする場合等も支給の対象となります。

Q2:パートやアルバイトを休ませた場合も助成金の対象か?

特例措置では、パート・アルバイトなど雇用保険未加入者も助成金支給の対象となります。(この場合、支給されるのは「緊急雇用安定助成金」という名称になります。計算方法や申請の様式が異なりますのでご注意下さい。)

Q3:ちょっと休業しただけでも支給の対象になるか?

小規模事業主の場合、従業員2人あたり1日以上の休業を行っていれば支給対象になります。
例えば、従業員が4人の会社であれば、この4人で合計2日分以上の休業を行えば、支給の対象となります。

Q4:対象期間内であれば無制限に休業できるのか?

支給限度日数が定められています。特例措置が適用される場合、4月1日から6月30日までの期間+100日が1年間の支給限度日数となります。

(2) 休業実施

計画に従って休業を実施します。
休業させた日や時間が分かるよう、タイムカード・出勤簿・シフト表などをしっかりと作成してください。

実際の休業実績に応じて、上記の1日あたりの休業手当の額に休業日数をかけた休業手当を支給します。
支給した休業手当の額が分かるよう、給与明細や賃金台帳などを作成してください。

これらの資料は、申請時の添付資料として提出する必要があります。

(3) 支給申請

申請は基本的に1か月ごとに行います。(給与の締め日が25日の場合、26日から翌月25日を一区切りとして申請します。)
※申請は対象期間の終了後2か月以内に行う必要があります。

申請書類の書き方や、添付書類については、厚生労働省のマニュアルをご参照ください。

2) 小規模事業主以外の事業主の場合

(1) 休業の計画

小規模事業主の場合と同様に、休業の計画を立案します。

休業の規模は、小規模事業主の場合と異なり、事業所単位での休業延べ日数が、所定労働延べ日数の1/40以上(大企業は1/20以上)でなければなりません。

(2) 労使協定の締結(休業協定書の作成)

小規模事業主と異なり、事前に労使間で協定を締結し、その協定に沿って休業等を実施する必要があります。労使協定は、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合と、ない場合は労働者の過半数の代表との間で締結します。

協定書の記載事項やサンプルは、厚生労働省のガイドブックをご参照ください。

3)休業の実施

小規模事業主の場合と同様、タイムカードや給与明細などの提出書類を、確実に作成してください。

4)支給申請

申請の様式や、必要となる添付書類が小規模事業主とは異なります。
詳しくは厚生労働省のホームページをご確認ください。

5 申請にあたって

雇用調整助成金については、申請書類を用意するのが大変であるとか、支給までに時間がかかるなど否定的な報道もなされていましたが、5月19日発表の特別措置により、必要書類が大幅に簡素化されました。

特に、小規模事業主については、事前に労使協定を締結する必要がなくなったこと、また就業規則の提出が求められなくなったことが非常に大きな変更点です。これまで、申請をためらっていた事業主の方も、改めて申請を検討いただければと思います。

残る問題は、売上高や生産量の5%低下を示す資料をどのように揃えるかですが、これについては、月別総勘定元帳などの帳簿を作成していなくても、伝票等によって代替できる可能性がありますので、あきらめずに手元にどのような資料があるか確認いただければと思います。

より詳細な申請手続きや要件などについては、厚生労働省のホームページもご参照ください。また、具体的な手続等で迷われるところがあれば、当事務所にお問合せください。

(弁護士 平田尚久)