新型コロナウイルス感染症対策としての定時株主総会の開催方法(下)〈ハイブリッド型バーチャル株主総会〉

新型コロナウイルス感染症対策としての定時株主総会の開催方法(上)では、新型コロナウイルス感染症対策として、定時株主総会の会場への株主の来場を減らすための開催方法の工夫についてご説明しました。

本稿では、来場者数を減らす手段ともなり、入場者数の制限等を行う場合の補完措置ともなり得る「ハイブリッド型バーチャル株主総会」についてご説明します。

1 ハイブリッド型バーチャル株主総会

「ハイブリッド型バーチャル株主総会」とは、物理的に存在する会場において取締役や株主等が一堂に会するリアル株主総会を開催しつつ、リアル株主総会の場にいない株主にも、インターネット等の手段を用いてこれに「出席」あるいは「参加」することを認めるものです。

リアル株主総会を開催せず、取締役や株主等が全員、インターネット等の手段を用いて株主総会に出席する「バーチャルオンリー型株主総会」の開催は、新型コロナウイルス感染症対策としての定時株主総会の開催方法(上)でご説明したとおり、会社法(以下「法」といいます。)の解釈上困難とされますが、併存する「ハイブリット型」は認められます。

「ハイブリッド型バーチャル株主総会」を開催することができれば、「三密」になりかねないリアル株主総会の会場への入場はできれば控えたいが、株主総会に出席して、審議の内容を確認した上で議決権を行使したい、あるいは議決権の行使はどちらでもよいが、経営者の考えや事業戦略を聞きたいと考える株主のニーズを満たすことができるため、来場者数をさらに減らすことができると思います。

2 「出席」型と「参加」型

ハイブリッド型バーチャル株主総会には、リアル株主総会の会場にいない株主が、インターネット等の手段を用いて株主総会に出席し、会場にいる株主と共に審議に参加し、決議に加わる「出席」型と、株主総会への出席はせず、会社から通知された固有のIDやパスワードによる本人確認を経て(これに限りませんが)、特設されたWEBサイト等で配信される中継動画を傍聴する「参加」型があります。

2020年2月26日に経済産業省が「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を策定しており、それぞれについてメリット・デメリット、留意事項等が詳しくまとめられていますので、開催を検討するにあたっては、そちらを確認いただくことをお勧めしますが、実施ガイドの内容を踏まえて留意事項の要点をまとめると、以下のとおりとなります。

3 ハイブリッド「出席」型バーチャル株主総会

1 情報伝達の双方向性と即時性の確保

 「出席」型を開催するためには、会場と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されていることが必要となります(確保できていなければ、「出席」型とは認められないため注意が必要です。)。

この点については、株主が比較的少数であれば、Skype、Zoom、Teams、FaceTimeなどの無料のツールを利用してビデオ通話を行えば、実現することができます。他方、多数になるとシステム開発、導入が必要となり、ハードルが上がります。

また、サーバー攻撃や通信障害に備えて、サイバーセキュリティ対策と、通信障害が起こりうることの告知が、アクセスを容易にするため、必要な通信環境(通信速度、OS、アプリケーション等)とアクセス手順の通知がそれぞれ必要です。

2 本人確認

バーチャル出席株主の本人確認を行う必要があります。これについては、事前に株主に送付する議決権行使書等に、株主毎に固有のIDやパスワード等を記載し、ログイン時に当該IDとパスワード等を入力してもらう方法が考えられます。

この点については、株主が比較的少数で、全員について顔と名前が一致する人物という場合は、ID、パスワードなど必要なく、ビデオ通話画面上で顔を確認するだけで問題ありません。ごく一部に顔と名前が一致しない人物がいるだけであるという場合も、その人物に名前とIDやパスワード等を告げてもらう、あるいは免許証を示してもらう(もちろん、本人の同意がなければ、他の出席株主に見えないようにする必要はあります)など適宜の方法をとれば良いと思います。

3 議決権行使と事前の議決権行使の効力

バーチャル出席株主の議決権行使は、当日の議決権行使として扱うことになります。

会社においては、バーチャル出席株主が株主総会当日に議決権を行使することができるシステムを用意しておく必要があります。

この点については、株主が比較的少数であれば、ビデオ通話画面上で挙手を確認する方法をとればよく、別途システムを構築、用意をする必要はありません。

なお、バーチャル出席株主が書面又は電磁的方法により事前に議決権を行使していた場合は、ログイン時にその効力を取り消すのではなく維持し、採決のタイミングで新たな議決権を行使した場合に限り、事前の議決権行使の効力を取り消す扱いをすることが考えられます。ただし、この取扱いについては、あらかじめ株主総会招集通知等で株主に通知しておくことが必要です。

4 質問・動議

バーチャル出席株主も、株主総会に出席している以上、リアル出席株主と同様に、質問(法314条)や動議(法304条等)を行うことができます。

しかし、質問と動議を取り上げるための準備に必要な体制や時間を考慮して、リアル出席株主とバーチャル出席株主の出席する株主総会を一つの会議体として運営するために、次の対応をとることが考えられます。

〈質問について〉

・質問回数・文字数の制限、送信期限、不適切な内容の不採用など、あらかじめ運営ルールを定め株主総会招集通知等で通知すること。

・株主は会社が要したフォームに質問内容を書き込んで送信し、会社は運営ルールに従いそれ確認し、議長が取り上げること。

〈動議について〉

・提出について、株主総会招集通知で、「バーチャル出席者の動議については、取り上げることが困難な場合があるため、動議を提出する可能性がある方は、リアル株主総会へご出席ください」と案内し、原則として受付をしないこと。

・採決について、株主総会招集通知で、「会場の出席者から動議提案がなされた場合、バーチャル出席者は、事前に書面又は電磁的方法により議決権を行使して当日出席しない株主の取扱いも踏まえ、棄権又は欠席として取扱うことになりますのであらかじめご了承ください」と案内し、実質的動議については棄権、手続的動議については欠席として取扱うこと。

もっともこの対応は、株主数が多い場合を前提とした想定した対応と思われますので、各社の事情によりますが、Skype、Zoom、Teams、FaceTimeなどの無料のツールを利用したビデオ通話でバーチャル株主総会を開催するような株主数が比較的少数の場合であれば、法が認める株主の権利ですので、リアル出席者と同様に挙手と口頭による質問・動議の提出や動議採決への参加を認めた方が良いと思います。  

4 ハイブリッド「参加」型バーチャル株主総会

1 情報伝達の双方向性と即時性の確保は不要

「参加」型の場合は、株主総会に出席するのではなく傍聴するだけですので、情報伝達の双方向性や即時性を確保する必要はなく、時間差で録画配信をしても問題はありません。

生中継をする場合は、サーバー攻撃や通信障害に備える必要がありますが、仮に通信障害が起きたとしても、株主総会決議の効力には影響がありません。

なお、肖像権との関係で、リアル出席株主には、株主総会の様子が中継・配信されることについて事前にアナウンスを行っておく方が良いと思います。

2 本人確認

バーチャル参加株主は株主総会に出席するわけではありませんので、本人確認をする必要はありませんが、株主以外が参加できないようにしたい場合は、「出席」型と同様の本人確認方法をとることをお勧めします。

3 議決権行使

バーチャル参加株主は、株主総会当日に議決権を行使することはできません。

そのため、株主総会招集通知等で、議決権行使の意思のあるバーチャル参加株主は、書面や電磁的方法による事前の議決権行使を行う必要があること(これらを認める場合)を周知する方が望ましいといえます。

4 質問、動議

バーチャル参加株主は、株主総会において質問や動議を行うことはできません。

そこで、事前にコメント等を受け付けて、必要に応じてリアル株主総会で紹介・回答を行うほか、株主総会終了後や後日ホームページで紹介・回答するといった取組をすることが考えられます。

5 まとめ

ハイブリット「参加」型バーチャル株主総会は、どの規模の企業でも比較的取り組みやすく、ハイブリット「出席」型バーチャル株主総会は、株主数が比較的少ない中小企業ではすぐにでも始めることができるものだと思います。

テレワークと同様、やってみると意外とできることが分かるのではないかと思いますので、「三密」を避けるためにも、本年はトライアルとして実施してみてはいかがでしょうか。

(弁護士 高橋弘毅)