新型コロナウイルス感染症対策としての定時株主総会の開催方法(上)〈来場者を減らす工夫〉

新型コロナウイルス感染症対策としての定時株主総会の省略あるいは延期については、前ブログでご説明しました。本稿では、新型コロナウイルス感染症対策として、定時株主総会開催場所への株主の来場を減らすための開催方法の工夫についてご説明します。

1 来場を控えるよう要請すること

会社法(以下「法」といいます。)298条1項1号において、株主総会招集にあたり株主総会の場所を定めなければならないとされていますので、株主総会の開催場所を設けないバーチャルオンリーの株主総会を開催することは法解釈上困難とされています。

そのため、会社は、株主が実際に足を運んで出席することができる定時株主総会開催場所を設ける必要がありますが、「三密」(密集、密閉、密接)を避けるためには、当該場所への来場者を減らすことを考える必要があります。

この点については、経済産業省と法務省が4月2日に「株主総会運営に係るQ&A」(4月28日更新)Q1において、株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主に来場を控えるよう呼びかけることは、株主の健康に配慮した措置であり、可能であるとの見解を公表していますので、会社としては、まずこの呼びかけをすることが考えられます。

 法務省HP https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/kabunushi_sokai_qa.pdf

具体的には、楽天株式会社が株主に案内したように、「新型コロナウイルスの感染拡大の状況にご留意いただき、健康状態によらず、本年はご来場を見合わせることをご検討くださいますよう、お願いいたします。」という呼びかけが良いと思います。その他、同社の案内文は非常に参考になりますので、こちら(PDFファイル)をご覧ください。

2 入場者数の制限をかけること

次に考えることは、定時株主総会開催場所への入場者数に制限をかけることです。

平時であれば、企業規模、株主数、例年における出席者数などを考慮して会場を設定して、株主の株主総会への出席の機会を確保する必要があるところです。

しかしこの点についても、上記「株主総会運営に係るQ&A」Q2において、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも可能であるとの見解が公表されていますので、会社としては、この方法をとることが考えられます。

ただし、これには、「やむを得ないと判断される場合」、「合理的な範囲内において」との留保が付されていますので、株主総会の開催時期における新型コロナウイルス感染症の蔓延状況、地域(特定警戒都道府県であるか否か)、企業規模、株主数などを踏まえて決定していく必要があります。もちろん、合理的理由のない恣意的な入場制限はかけてはなりません。

なお、「株主総会運営に係るQ&A」Q3において、全ての株主に平等に登録の機会を提供するとともに、登録方法について十分周知し、株主総会に出席する機会を株主から不公正に奪うものとならないよう配慮した上で、株主総会に出席を希望する株主に事前に登録を依頼し、事前登録をした株主を優先的に入場させる等の措置をとることも可能であるとの見解が公表されています。

一定数の出席はできるようにした上で、Web登録のみならず、書面郵送での登録もできるようにするなどしておけば、この方法も合わせてとることが考えられます。  

3 書面及び電磁的方法による事前の議決権行使

上記1及び2により定時株主総会開催場所への来場者・入場者を減らすとしても、株主の議決権行使の機会は確保する必要があります。

そのため、そもそも株主数が1000人以上の非公開会社の場合は書面による事前の議決権行使を認めなければならないことになっていますが(法298条2項)、それ以外の会社でも上記1及び2により例年より来場者・入場者を減らす場合は、書面による事前の議決権行使(法311条1項)を認めるべきということになります。

また、上記非公開会社を含めて、合わせてインターネット、電子メール等の電磁的方法による事前の議決権行使(法312条1項)を認める方が良いと思います。

これらを認める場合は取締役会設置会社であれば取締役会決議によることになりますが(法298条4項)、書面による事前の議決権行使を認める場合は、株主総会招集通知の際に、こちらのサンプル(議決権行使書例)のような議決権行使書面を送付することになります。

特に株主数が少ない中小企業においては、これらの方法により、設定した株主総会会場への来場者ゼロとすることも可能ではないかと考えます。

なお、「株主総会運営に係るQ&A」Q3においては、これらの結果として、設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能であるとの見解が公表されています。

4 代理人による議決権行使(委任状の勧誘)

上記3の書面及び電磁的方法による議決権行使の方法ではなく、あるいはこれと並行して、株主に対して、会社から会社が指定する者に議決権の代理行使させるよう勧誘することが考えられます。

この場合は、こちらのサンプル(委任状例)のような委任状に必要事項を記載してもらい、会社に送付してもらうか(法310条1項)、あるいは、これに代えて、必要事項を記載した電子メールを送信してもらうことになります(法310条3項)。この方法によっても、定時株主総会開催会場への来場者数を減らすことができます。  

5 バーチャル株主総会

上記1及び2の補完措置となり得る「バーチャル株主総会」(現行法上難しい「オンリー型」ではなく、リアル株主総会の開催を前提とした「ハイブリット型」)については、「新型コロナウイルス感染症対策としての定時株主総会の開催方法(下)」でご説明します。

(弁護士 高橋弘毅)