店舗の営業活動再開に向けて

1 はじめに

5月4日、緊急事態宣言は対象地域を全国として5月31日まで延長が決定されました。

また、政府の「基本的対処方針」が改訂され、「特定警戒都道府県」以外については、「経済活動再開に向けた指針」が示されました。この対象地域では、感染防止策を講じること、テレワークの推進などを前提として経済活動の自粛緩和が始まっていくことになります。

ここ兵庫県は「特定警戒都道府県」に入り、引き続き休業要請等の措置がなされる地域ということになりますが、いずれは、新規感染者数の推移や地域の医療体制の状況によって、段階的に経済活動が再開されていくことになります。

現在、店舗営業を停止、縮小している企業について、今後、営業再開に向けて押さえておかなければならないポイントなどを解説したいと思います。

2 「休業要請」から「感染の防止のために必要な措置」へ

現在の「緊急事態宣言」は新型インフルエンザ等特別措置法(新型コロナウィルス感染症に適用されている)に基づくもので、同法に基づき、都道府県知事が業種別に施設の使用の制限や停止などの要請をしているというものです。

この要請にも種類があります。

(1) 「施設の使用の停止」(法45条2項。休業要請)

これはまさに店舗営業を停止することの要請です。法的な強制力はありませんが、従わない場合には休業指示がなされることがあります。

時間の制限の場合もあります。たとえば飲食店などについては「午前5時から午後8時までの間の営業を要請する」などです。

(2)  「感染の防止のための必要な措置」の要請(法45条2項「その他政令で定める措置」、新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令12条)

政令12条では、

  1. 新型インフルエンザ等の感染の防止のための入場者の整理
  2. 発熱その他の新型インフルエンザ等の症状を呈している者の入場の禁止
  3. 手指の消毒設備の設置
  4. 施設の消毒
  5. マスクの着用その他の新型インフルエンザ等の感染の防止に関する措置の入場者に対する周知
  6. その他

が定められています。休業要請はしないけれども、営業する場合には入場者数の整理や消毒などの適切な措置をとって下さい、というものです。

今後、状況をみながら、「休業要請」の対象であった施設・店舗についても、「感染の防止に必要な措置」をとったうえで営業することが認められるという段階に徐々に進んでいくと考えられます。

従って、営業施設の所在地の都道府県のHPなどの広報(兵庫県の場合https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk03/200129.html)を確認の上、自社の店舗にどのような要請がなされている状態かを把握して、また、社会経済の状況を確認しながら、活動再開方針を立てていく必要があります。

また、現在休業している店舗の多く(飲食店など)は、休業要請の対象ではないが、外出自粛、人との接触7割削減という政府の方針に応じて休業をしています。

こちらも、外出自粛に対する政府の方針が変われば(たとえば、5月4日方針では、13の特定警戒都道府県以外は「県境をまたぐ移動や接待伴う飲食店を除き、自粛要請せず」と緩和されています)、そのときどきの状況に応じて営業再開を考えていくということになります。

3 店舗営業再開のときの注意点(感染予防対策)

店舗営業を再開する場合にまず注意すべき点は次の通りです。

休業要請の対象ではなくとも、「感染の防止に必要な措置」をとる必要はどの事業所もあります。

感染予防という意味では、都道府県知事からの明示された要請がない場合でも、必要な措置をとらなければなりません。

2に述べたとおり、入場者数の制限・整理、発熱等のある者の入場の禁止、消毒、従業員のマスク着用などです。換気などにも気を配り、いわゆる「3密」(密閉、密集、密接)を避けることが重要です。

この対策が出来ないことは、顧客との関係では、契約に付随する安全配慮義務違反として債務不履行責任(民法415条)、または、不法行為責任(民法709条)が問われることにもなりかねません。

こう説明すると、もしも顧客から「あなたの店舗に行ったあとにコロナ感染が分かったので損害賠償請求をする」といわれたらどうしたら良いのか、ということも心配になるかもしれません。もちろんケースバイケースですが、正しく感染予防をしていた場合には、感染の原因が店舗の責任範囲のことにあるのかどうか(因果関係)は不明ということになると思われます。従って、十分な感染予防をするならば、この点を過剰に恐れる必要はないと思います。

また、感染予防対策は、従業員に対しての安全配慮義務(労働契約法5条)という面でも非常に大切です(動画「新型コロナウィルスと労務」参照)。

やはり、可能な限り出勤人数を減らす、テレワークの推進、発熱症状などのある者を休業させる等の対策です。

4 新型コロナウィルス対応のポリシー(方針)の策定、明示

これは非常に重要なことです。4月中でもこれが大事なことだったことに違いありませんが、営業活動を再開していく上ではさらに大切になってきます。やはり、顧客に対して(対外的に)、従業員に対して、の両方が重要です。

(1) 顧客に対して

「営業を再開すること。営業再開の時間など。」

「自社の行う感染対策(具体的に。必要なら図なども使用。)」

「お客様へのお願い(マスク着用、混雑防止など。)」

(2) 従業員に対して

感染予防の注意、症状が発生したとの対応(誰に知らせるか。責任者)などです。

徐々に外出する人が増え「気の緩み」も出てくると思われますから、不要不急の外出の自粛等を再度呼びかけることも大切です。

これは、社内で感染予防対策を引き続き徹底することの意味でも、顧客などの外部からの信用を得て、安心して来店してもらうためにも欠かせません。

5 勤務態勢の整備

徐々に企業活動を戻していく中で、執務体制も、感染予防に気を配りつつ、長続きする体制を組んでいかなければなりません。

本当の「緊急時」の対応から変化させて、少し緩やかにしつつも、やはり「コロナ下」で出勤人数・時間を減らしつつの体制を少し長いスパンを見据えて組んでいくということです。

そのためには、「シフトの組み方の見直し」や、「テレワーク」体制の本格的整備(オンラインツールの導入など)をなどが必要になると思われます。

できる限り従業員の雇用を維持しつつ、ただし、勤務日、勤務時間、勤務場所などの勤務条件については本格的な見直し、整備が必要になります。

6 取引の再開

仕入れ先との取引なども再開する必要がでてきます。

ただ、一旦コロナの影響で中断していた取引を再開するとき、相手の状況は様々ですから、予定の仕入れ先から仕入れることができない、という事態も発生するはずです。

この点は柔軟に考えて、一時的に、決まった取引先以外から仕入れるということを含めて臨機応変に対応する必要があります。

また、考えられる問題として、得意先との関係で、コロナの影響で一旦取引を中断したときに、売掛金、買掛金などが残っているなどのことですが、再開時には、すぐに掛け払いのお金を完全に解消できなくても、「まずは取引を動かす必要がある」ということで話し合い、一定の猶予をしてもらって取引再開を進めていくなどの対処ができれば良いと思います。

つまり、取引については得意先があったとしても臨時に新しいところに注文するということも考えられますし、または、せっかくの得意先とのつながりですから通常通りの決済ができない場合でも「支払いの猶予」などを柔軟にとりいれて関係継続していくことも重要と考えます。

7 終わりに

営業を再開していく段階では、休業要請を受けて一旦店舗を閉鎖したときに生じた問題、先送りしてきた問題がだんだん出てくることになります。

労務の問題、取引の問題などそれぞれのケースに適切に対応する必要がありますので、遠慮なくご相談ください。

そして、国や自治体、金融機関による各種の支援を活用したうえで、営業再開後の見通しを立てて、自社の「出口戦略」を策定していく段階に入っていくことになります。

「出口戦略」立案のために役立つ具体的な情報は、今後、随時アップしていきますのでどうぞよろしくお願いします。

(弁護士 村上英樹)