新型コロナウイルス感染症対策としての定時株主総会の開催省略・延期(後ろ倒し)

平時であれば、3月末日に事業年度の最終日を迎えた株式会社は6月末日までに定時株主総会を開催しますが、今は、新型コロナウイルス感染症対策として要請されている「三密」(密集、密閉、密接)を回避するためにも、定時株主総会の開催を省略、あるいは7月以降に延期(後ろ倒し)することを検討されている会社は多いと思います。

そこで、定時株主総会の開催省略・延期を検討する上で押さえておいていただきたいポイントを整理し、実行時にとっていただく具体的な対応をご説明します。

1 定時株主総会の開催省略の可否について

定時株主総会の開催については、会社法(以下、「法」といいます。)296条1項において、「定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。」と規定されています。

したがって、定時株主総会は原則として開催することが必要ですが、例外的に、株主全員が書面又は電子メール等の電磁的方法により、議案すべてに同意し(法319条1項)、取締役が通知した株主総会への報告事項すべての報告省略に同意した場合(法320条)には、定時株主総会の開催を省略することができます。

この時期ですので、特に同族企業や株主数の少ない企業において、株主全員から上記の同意を得ることが可能であるという場合は、同意を取得して定時株主総会の開催を省略することを考えていただきたいと思います。

2 定時株主総会の開催延期(後ろ倒し)の可否について

上記1で述べた定時株主総会の開催を省略することができる場合以外は、定時株主総会を開催する必要があります。

しかしその場合でも、あくまで「毎事業年度の終了後一定の時期に」開催すればよく、事業年度の終了後3カ月以内の開催を求められているわけではありませんので、定時株主総会の開催を延期(後ろ倒し)することはできます。

したがって、緊急事態宣言がいつまで延長されるのか、またそれにかかわらず、新型コロナウイルス感染症の蔓延がいつ終息するかなど不確定な要素が多いところですが、7月以降の適切と思われる時期に開催しても良いことになります(既に株主総会招集通知を発送している場合は招集撤回の通知を行い、開催時期に合わせてあらためて招集手続きをとることになります。)。

なお、定款に6月に開催すると規定していることが多いと思いますが、この定款の規定については、2月28日に法務省が「天災その他の事由によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じたときまで、その時期に定時株主総会を開催することを要求する趣旨ではないと考えられます。したがって、今般の新型コロナウイルス感染症に関連し、定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるものと考えられます。」との見解を公表していますので、今は気にする必要がありません。

法務省HP  http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html

3 議決権行使のための新たな基準日の設定について

ただし、上記2のとおり定時株主総会を7月以降に開催する場合は、議決権行使のための基準日を新たに定める必要があります。

定款に「当会社は、毎年3月末日の最終の株主名簿に記載又は記録された議決権を有する株主をもって、その事業年度に関する定時株主総会において権利を行使することができる株主とする。」というように、議決権行使のための基準日を定めている場合がほとんどであると思います。

しかし、基準日株主が行使することができる権利は、基準日から3カ月以内に行使する権利に限られます(法124条2項)。そのため、上記規定例のように定款に議決権行使のための基準日を3月末日と定められている場合は、取締役会決議により、新たに議決権行使のための基準日を定める必要があります(本来、定款変更及びそのための株主総会の特別決議が必要であると思いますが、法務省は不要としており、本年はこれらは不要であるという前提で進めて良いと考えます。)。

新たな基準日を定めた場合は、当該基準日の2週間前までに、当該基準日と基準日株主が行使することができる権利の内容を、定款に定める方法(自社ウェブサイト、日刊新聞紙、官報など)により公告することになります(定めがない場合は官報によります。法124条3項)。内容としては、サンプルとして用意したこちらのようなシンプルなもので問題ありません(定時株主総会の延期を通知する場合の例もサンプルとして作成しておりますので、適宜ご利用ください。)。

4 「継続会」の実施(二段階実施)について

上記2のとおり定時株主総会の開催を延期(後ろ倒し)して、上記3の基準日の新たな設定する以外の方法として、定款で普通決議の定足数を排除している場合に、「継続会」の実施を前提として株主総会への不出席を呼び掛けた上で(新型コロナウイルス感染症対策の場合)、6月中に最小限の出席者による定時株主総会を開催し、開催日時及び場所の決定を議長に一任するとする内容で「延期」(株主総会の成立後に議事に入らず、会日を後日に変更する)、または「続行」(議事に入った後に審議未了とし、後日に継続して行う)の決議をして、7月以降に「継続会」を実施する方法があります(法317条)。

この方法によれば、「継続会」は最初の株主総会と一体をなすため、3月末日の基準日株主は、7月以降の「継続会」において議決権を行使することができます。

「継続会」の実施時期については、諸説あるものの、最初の株主総会開催日から2週間以内に実施することが必要と解されていましたが(最初の株主総会を6月30日に開催したとしても、7月14日には実施する必要があるということです。)、4月28日に金融庁・法務省・経済産業省が連名で、「継続会」実施までの期間について、「関係者の健康と安全に配慮しながら決算・監査の事務及び継続会の開催の準備をするために必要な期間の経過後に継続会を開催することが許容されると考えられ、許容される期間の範囲について画一的に解する必要は無い。もっとも、その間隔が余りに長期間となることは適切ではなく、現下の状況にかんがみ、3ヶ月を超えないことが一定の目安になるものと考えられる。」との見解を公表しています。

金融庁HP www.fsa.go.jp/ordinary/coronavirus202001/11.pdf

新型コロナウイルス感染症の影響により4月と5月の裁判期日を全て取り消す対応をしていっている裁判所がこの見解に準じた司法判断を行わないことは考え難く、この見解によれば、新型コロナウイルス感染症の蔓延状況や各社の個別事情によるものの、8月、9月における「継続会」の実施も許容されることになりますので、この方法を選択することも考えられます。

5 選択する上での考慮要素(剰余金配当との関係)について

上記2及び3の定時株主総会の開催の延期(後ろ倒し)と上記4の定期株主総会を開催した上で「継続会」を実施する方法のいずれをとるかについては、剰余金の配当との関係を考慮する必要があります(剰余金の配当をしない場合は関係がありません。)。

定款に議決権行使の基準日を3月末日と定めている会社においては、剰余金の配当の基準日も同日と定めていることがほとんどであると思います。

定款で取締役会に剰余金配当の権限を授権している会社(法459条1項4号)においては、取締役会の決議により3月末日の基準日株主に剰余金を配当することができますので、定時株主総会の開催を延期(後ろ倒し)しても、当該決議さえ行えば、同基準日株主への影響はありません。

どちらの方法を選択するかは、各社の事情により決定すれば良いと思います。

他方、かかる授権がない会社においては、3月末日の基準日株主に剰余金を配当するためには、株主総会において6月末日までの日を効力発生日とする剰余金の配当に係る決議(法454条1項等)を行う必要があります。そのため、定時株主総会を7月以降に開催する場合は、3月末日の基準日株主に剰余金を配当することができないことに注意が必要となります(この場合は、新たに剰余金の配当の基準日を新たに定め、当該基準日の2週間前までに公告を行い、当該基準日の株主に剰余金を配当することになります。)。

このことに関しては、3月24日に東京証券取引所が「仮に3月期決算の上場会社が今期事業年度終了後3か月以内に定時株主総会を開催できないこととなり、配当金その他の権利の基準日を事業年度末日から変更することとなった場合、3月30日以降変更後の権利付最終日において当該銘柄を保有していない場合は、配当その他の権利が付与されないこととなります。投資者の皆様におかれましては、上場会社の定時株主総会の開催日程等によっては、そうした事象が生じる可能性がある旨を御留意いただきますようお願い申し上げます。」との注意喚起を行っていましたが、この注意喚起により現実に周知されていたとはいえず、3月末日から株主の変動がある会社においては、その影響が大きいということもあると思います。

これに対して、6月中に定時株主総会を開催し、剰余金の配当に係る決議だけは行った上で「続行」の決議を行い、7月以降に「継続会」を実施する場合は、3月末日の基準株主に剰余金の配当を行うことができます。そのため、基準日変更による影響が大きいという場合は、こちらの方法を選択することを考えることになります。なお、この場合には、「継続会」で当該決議を行うことはできないと一般に解されていることには注意が必要です(反対説もあり、解釈が変わるかもしれませんが、決議をして初めて効力が発生するところ、決議時点で6月末日を経過しているからです。)。

6 各社の動向について

なお、東京証券取引所が5月1日に公表した3月期決算会社の定時株主総会の動向によれば、4月30日時点で、定時株主総会を延期し、基準日を変更することを決定した上場会社は9社(剰余金配当の基準日を変更した会社は内3社)、これを検討している上場会社は39社(7.0%。剰余金配当の基準日の変更を検討している会社は内26社)、「継続会」の実施を検討している上場会社は85社(15.3%。基準日の変更と双方を検討している会社を含む。)とのことです。

日本取引所グループHP https://www.jpx.co.jp/news/1021/nlsgeu000004pocj-att/20200501.pdf

(弁護士 高橋弘毅)