業務委託契約の報酬について

緊急事態宣言を受けて各種の営業やイベントが自粛されていますが、これに伴って、営業を停止する間、外部に継続的に依頼している業務委託を停止するということがあります。この場合に、委託先の業者に対して報酬を支払われるべきなのかというご相談をいただいています。

この問題について、ある施設における食堂の運営に関する業務委託契約を例に考えてみたいと思います。なお、業務委託契約には内容によって民法の請負契約にあたる場合もありますが、この記事では準委任契約にあたる場合を想定させていただきます。

<発注者の言い分>

この施設では、来場者の便宜のために食堂を用意していますが、その運営を外部の事業者に委託しています。契約期間は毎年1月1日から12月31日までで、1年ごとに更新しています。また、業務委託の報酬は、食堂の売り上げの何%という決め方をしています。

今般、新型コロナウィルスの感染拡大を防止するため、食堂の営業を停止しました。受託業者は、営業停止についてはやむを得ないこととして受け入れてくれましたが、休業補償を支払って欲しいと要求されています。

売上が発生していない以上、発注者に報酬の支払義務はないのではないでしょうか。また、政府の緊急事態宣言も出されているのですから、営業停止は不可抗力によるものだと思います。それでも補償の支払が必要なのでしょうか。

<受託業者の言い分>

当社は、この施設の食堂を運営するために、専属の従業員を数名雇用しています。営業を停止したことから従業員にも休業を命じましたが、休業手当を支給しなければなりません。また、この食堂の業務を受注するにあたって、いくつか新しい機材をリースで調達しましたが、そのリース料も当社が負担しており、毎月相当な額の支払が発生しています。

コロナウィルスの影響とはいえ、最終的には発注者にて営業停止を決定したのですから、発注者には休業による逸失利益を補填していただきたいと思います。

(1) 民法の規定

この問題について、まずは民法がどのように規定しているか確認します。

<原則として報酬は請求できない>

業務委託契約の報酬は、一般的に、業務を遂行したことに対する対価として支払われるものですから、業務を遂行していない以上、原則として報酬を請求することは出来ません(民法648条2項)。これは、例えば1ヶ月あたり何円など期間で報酬を決めている場合でも同じです。ただし、業務の一部を遂行したという場合には、その割合に応じて報酬を請求することができます(民法648条3項)。

<発注者の責めに帰すべき事由による場合>

しかし、業務の終了が発注者の責めに帰すべき事由による場合には、受託業者は報酬の全額を請求することができる可能性があると考えられています(民法536条2項、法制審議会民法(債権関係)部会資料81−3)。

上記の事例では、政府の緊急事態宣言による要請を受けて営業を停止しており、発注者の責めに帰すべき事由によって業務を停止したとは言い難いと私は考えます。また、売上の何割という報酬の定め方をしている以上、割合に応じた報酬を計算することもできません。

(2) 妥当な解決のために

ここで、発注者の側に改めて考えていただきたいのは、何のために業務委託契約を結んだのか、契約によってどのような利益を得ようとしていたのかということです。これを見直すことによって、発注者として何に対価を支払うべきかが見えてくると思うのです。

上記の事例では、食堂の運営を維持することで施設利用者の便宜を図り、中長期的に施設利用者の増加を期待していたのではないでしょうか。そうであれば、実際に営業を行なったかどうかにかかわらず、いつでも営業出来る状態を維持しておくことに価値を認め、それに対して支払を行うことを考えるべきではないでしょうか。

契約書にはこのような支払について何も書いていませんから、いくらを支払うかについては、発注者と受託業者の協議によって決定することとなります。

この協議において、受託業者の側は、どのような費用が発生しているのか、具体的に数字を示すべきでしょう。まずは、営業体制を維持するために何が必要か確認し、そのための費用をなるべく抑えるよう、両者が協力できることはないか検討します。また、雇用調整助成金を活用するなど、受託業者の損失を他の方法で補填できないかも検討する必要があるでしょう。その上で、どうしても必要な費用については、発注者が負担すると決めてもよいのではないでしょうか。

また、併せて、業務再開を誰がいつまでに判断するのか、再開時の手順や臨時に必要となる費用負担についても協議し、合意の内容を書面にしておくべきでしょう。

以上のように、業務を停止した場合の報酬の支払については、契約書の文言や解釈によって議論するのではなく、何のために契約を結んだのかという契約の目的に立ち返り、発注者が得る利益に対し適正な対価を支払うという姿勢で協議を行うことが重要だと私は考えます。また、こうした協議をお互いに真摯な姿勢で行うことが、コロナ後の円滑な業務再開に繋がるはずです。

具体的な契約について、お困りのことや迷われることがあれば、是非ご相談下さい。どのように協議を進めていくかや、書面の作成などご協力させていただきたいと思います。

(弁護士 平田尚久)