新型コロナウィルス影響下でのテナントの賃料(上)~テナント側から
1 はじめに
新型コロナウィルス感染症の影響で、特に休業要請の対象となる店舗(飲食店など)について賃料の支払いが苦しくなっています。
当事務所にも、テナント側、オーナー側のいずれからも賃料についての相談が寄せられています。
そこで新型コロナウィルス感染症の影響下での賃料交渉のやり方について、テナント側とオーナー側に分けて解説いたします。
この記事は、どちらに立っても「テクニックで得をする」という考えの記事ではありません。この厳しい時代に、テナントもオーナーも共に難局を乗り越えることを目標として正しく真摯に交渉をする、そのやり方を記しました。
賃貸借契約は長期の契約であり互いの信頼に基づくものですから、賃料交渉をした上でもオーナーとテナントが良好な関係を維持して、互いに痛みを分かち、互いに利益を確保するという考えなくしては交渉は上手くいきません。
正しい根拠に基づき、互いの置かれた状況を確認しながら、各種の助成・支援制度なども互いにフル活用することを前提に交渉すれば道は開けるということをお伝えしたいと思います。
2回に分けて、今回(上)ではテナント側の立場の解説とし、(下)としてオーナー側の立場について解説します。
2 テナント側から猶予や減額を申し入れる場合
① 申し入れをするときの心構え
特に飲食店など、休業要請などを受けて店舗を開くことができず、売上げがあがらないけ れども賃料など固定経費がかかるという状態が発生しています。
現在、新型コロナウィルス対策として、各種助成金などが創設されていますが、賃料についても、4月15日に(公社)全国宅地建物取引業協会連合会が国に対して、テナントの賃料助成制度を創設するよう要望するなどの動きがあります。
もちろん、まずは、各種助成などを活用して賃料の支払いを継続することを考えます。
ただし、このままの状態では経営が破綻しかねない、という場合に、どうにか賃料を一定期間支払いを待ってもらう(猶予)、または、コロナウィルスの影響がある期間について減額してもらうことができないか、ということも検討せざるを得なくなってきます。
さて、そういうとき、
「賃料を約束どおり支払えない場合は、即明け渡さなければならないのか?」
「この情勢の中で、オーナーに賃料の猶予や減額を申し入れてもよいものか?」
「どのようにオーナーに伝えれば良いのか?」
「猶予はどれくらいの期間?」
「減額とはどの程度?」
ということが気になると思います。
そして何より、
「賃料についての申し入れをすることによって、オーナーとの関係が悪くならないか?」
はどうしても気になると思います。
ここでは、新型コロナウィルスによる経済活動抑制という現実に対して、テナントとオーナー側が、敵対するのではなく、痛みを分けつつ共同して対応するという考え方からの対処法をお話ししたいと思います。
テナントにとって、賃料についても一定の救済を受けることができ、またオーナーとの関係も良好に維持する方法を考えたいと思います。
② 「まず、賃貸借契約書と自社の損益計算書を確認!」
交渉を始めるかどうかを考えるとき、第一に、現在の契約の状態を確認する必要があります。
賃貸借契約書には、
普通賃貸借か定期借家契約か
賃料の金額
契約期間(何年何月までか)
中途解約条項
敷金・保証金
賃料改定についてどのように定めているか
が記載されています。
改めて契約書を見ると、もし退去するとなった場合に今通知すれば何月まで賃料が発生するのか、敷金は何ヶ月分入れているのかなど、普段は意識していないことに気づくことも多いはずです。
そもそも、賃料は近隣相場と比べてどうだったのかも再確認し、事情により賃料減額を協議する条項があるかどうかもチェックしましょう。
契約書を確認した上で、何を申し入れるかを考えるにあたっては自社の「損益計算書」(月ごとの収支の推移)が重要です。
例えば、新型コロナウィルスの影響により具体的に売上げが前年比で何%下がったのか、を数字で明らかにします。
これが、オーナーに申し入れるときの根拠資料になりますし、また、オーナーとの交渉で目指すべきゴール(何ヶ月分、○%の減額)を定める材料になります。
③ 新型コロナウィルス影響下での交渉のはじめかた
平常時であれば、賃料減額交渉の「切り出し方」にしても、具体的な要望を伝えることなく相談を申し入れることから始めるべきではないか、まず文書を送付するのがよいか、など色々悩むでしょう。互いの関係性、申し入れの内容などによって機微を感じ取って使い分けるのがベストですが、そのベストを知るのが難しいかもしれません。
現在の状況でも互いの関係性などを考慮して、礼を大切にすべきことは変わりません。
ただ、社会状況からオーナー側もある程度「賃料の猶予が減額の申し入れがあるのではないか」と予想していますので、気をもんで時間を経過させるよりは、真に申し入れが必要ならば、ある程度ストレートに申し入れをすることで良いと思います。
その際に大切なことは、上記②の「損益計算書」の項目で説明したとおり、自社の経済状況を数字で具体的に示すことです。
たとえば、「弊社の○月の売上げは前年比で○%の下落となっています」等の根拠を示し、自助努力を行ったとしてもそのままでは経営を維持することが困難である事情を正しく伝えた上で、「○月から○月までにつき、賃料の支払いを猶予する(または、○%の減額をお願いする)」等と要望を伝えるということです。
④ 交渉のゴール
売上げが前年比で大きく下落しているなどの事情があることは、賃料についての交渉を開始する材料です。
これに対して、オーナー側がどの程度交渉に応じられるかは、②で先に見た「賃貸借契約書」と賃料相場、経済動向によって決まります。
つまり、テナントが退去することになった場合に、空き室ができることにより何ヶ月分の賃料を得る機会を失うのか、もともとの賃料に下げる余地はどの程度あるのかなどは、まず契約条件から検討する問題だからです。
もとの賃料が相場よりも高かったとすれば減額の余地もありますし、敷金が多く入っているとすれば猶予の余地があります。
逆にそれらの余裕がなければ、オーナー側はもともと利益が薄く、担保も持っていないわけですから、テナント側の大きな要求は通りにくいことになります。
結局、互いの事情を総合して、「どこで痛み分けるか」、いいかえれば、「共にこの難局を乗り越えるための決着点」を探ることになります。
話し合いで解決する(和解)は、「互譲」(互いに譲ること)がなければ成立しません。
100%思い通りになることは少ないと思いますが、上に述べたとおり、客観的な資料に基づいて、テナント側の状況を偽りなく伝えて真摯に交渉をすることが、事業存続に一番役に立つ結果につながると思います。
合意ができれば、「覚書」などの書面を作成します。
3 まとめ
以上の通り、契約書を確認し、自社の月別の収支を損益計算書で明らかにしたうえで交渉に臨むことがポイントです。
当事務所でサポートさせていただく場合も、上記の順番で、依頼者の皆様とともに必要な整理、目標の設定をして交渉を進めます。
以上を参考にしていただければ幸いです。
実際の場面でのアドバイス、サポートが必要であれば、どうぞ遠慮なくご相談ください。
(弁護士 村上 英樹)