事業継続のためにまずしていただきたいこと

当事務所にも、外出自粛や休業要請の影響を受けた事業者の方から相談が多く寄せられています。中には、急激な売上の減少等の理由により、事業継続に不安を抱えられている方からのご相談もございます。

売上の減少、迫る支払、資金繰りの悪化など次々押し寄せる問題に頭を抱えておられる事業の方には、何が今の課題であり、何を今解決していかなければならないのかを把握するために、まずは、資金繰り表を作成してみていただきたいと思います(連絡いただければ、お手伝いします。)。
月次の資金繰り表と日毎の資金繰り表のテンプレートを作成しましたので、特に用意がないという方は、こちらをご使用ください。数値を入れていけば、自動的に計算されるようにしております(項目等を加除修正する場合は、「校閲」の項目の中の「シート保護解除」を選択ください。パスワードは「kobecity」になります。)。

月次の資金繰り表を作成して見ると、当社の当面の課題が見えてくるかと思います。
いうまでもなく、最大の課題は売上収入の減少です。
これまでの取組みとは別の取組みをすることなどにより(報道によれば、飲食業界は宅配や弁当などの持ち帰り商品の販売を始め、神戸市長田区のシューズメーカーは、靴のインナーに使用されているウレタン素材で、制菌マスクの製造販売を始めるなど様々な取組みをされているようです。)、売上の減少分をカバーすることができる、あるいはその見込みがあるというのであれば、その取組みに邁進することになります。
しかし、そのような見込みは直ちに立たない、あるいは立っているものの、その効果が出るまで一定期間を要するという場合で、資金繰りに問題が生じうるのであれば(※1)、社会が新型コロナウイルスの影響を脱し、当社の売上が回復するまでの間、運転資金がショートしないように支出を考えていくことになります。
※1 新型コロナウイルス感染症の影響により売上が前年同月比で50%以上減少している場合は、法人2,000,000円・個人事業者1,000,000円(ただし、昨年1年間の売上からの減少分を上限)を給付する持続化給付金制度も利用してください。
[経産省HP https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/kyufukin.pdf

支出の内容に関しては、事業者の方ごとに異なると思いますが、状況に応じて次の①~⑤の対応が考えられます。

①仕入代金の支払
・仕入の内容を見直すこと
・現金払いをしている取引先に掛払いのお願いをすること
・掛払いをしている取引先に支払期日の延長のお願いをすること(手形を振り出している場合も支払期日の延期をお願いすること※2)
・手形を決済できないことが分かった場合は、速やかに支払銀行に連絡すること
 ※2 全国銀行協会は、新型コロナウイルスの感染拡大で資金繰りに苦しむ事業者に対して、手形や小切手の不渡り処分を当面猶予する特別措置を始めたと発表しています。
[全銀協HP https://www.zenginkyo.or.jp/topic/covid19/dishonored-draft/
事業を継続していく上では、取引先との取引継続は不可欠ですので、信用を損ないかねないお願いをすることについては、慎重にならざるを得ない面もありますが、支払の優先順位を第一に考えても、なお厳しい状況にあるのであれば、お願いをせざるをえません。

②給与の支払
・やむを得ず休業してもらう従業員には、休業手当(平均賃金の60%以上)の支払いをすること※3
 ※3 不可抗力といえる場合は、休業手当の支払も不要となりますが、個別事情による部分がありますので、ご相談ください。
(解説動画も参照ください。https://withyou.kobecity-lawoffice.com/archives/1139
・休業手当を支払った場合は、国の雇用調整助成金制度を利用すること※4
 ※4 緊急対応期間(4月1日から6月30日まで)、最大90%(日額1人8,330円上限)の助成を受けることができます。ただし現在、申請が殺到しており、助成金を受け取るまでに、時間を要することが見込まれます。社会保険労務士の方が具体的手続について詳しいところですので、顧問の社会保険労務士の方にご相談されてください。頼る方がおられない場合は、ご一報ください。
[厚労省HP
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html

③賃料の支払
・家主に対して、賃料の減免や支払猶予をお願いすること
不動産賃貸事業を営んでおられる事業者(家主)もそれぞれ事情があり、容易に応じていただけるわけではないと思います。しかし、国土交通省が、不動産関連団体を通じて、当該事業者には、新型コロナウイルス感染症の影響により、賃料の支払いが困難な事情があるテナントに対しては、その置かれた状況に配慮し、賃料の支払いの猶予に応じるなど、柔軟な措置の実施の検討を要請しています。そして、これに応じた場合の当該事業者に対する支援策(損失の税務上の損金算入、国税等の猶予措置、固定資産税等の減免措置等)も公表しています。真摯にお願いをすれば、この緊急事態においては、理解をいただける可能性は十分にあると思います。
[国交省HP http://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo16_hh_000201.htmlhttps://www.mlit.go.jp/common/001341221.pdf] 
どのように話をすれば良いか分からない、話を代わりにして欲しいという場合は、ご一報ください。

④借入金の返済
・貸出金利の引下げ、返済期間の猶予など返済条件の変更を申し入れること
全国銀行協会からは、新型コロナウイルスへの対応に関する銀行界の申し合わせとして、事業者の状況を丁寧にフォローアップしつつ、元本・金利を含めた返済猶予等の条件変更について、迅速かつ柔軟に対応するとの方針が公表されていますので、取引金融機関にご相談ください。その際、最初に作成いただいた資金繰り表は役に立つと思います。
[全銀協HP https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/news/news320312.pdf
当事務所とお付き合いのある金融機関に確認したところ、新型コロナウイルスの影響で売上が減ったことが分かる書類(帳簿類等)は必要となるものの、それ以外の通常の条件変更の際に必要としている直近の決算書、試算表、資金繰り表については、あくまでケースバイケースではあるものの、用意できなくても事情に応じて対応しているとのことでした。金融機関ごとに必要書類が異なると思いますが、参考にされてください。

⑤税金・社会保険料の支払
・支払の猶予と免除の申請を行うこと
下記のサイトをご参照ください。
  国税(所得税、法人税、消費税等)の納付の1年間猶予について
  [財務省HP https://www.mof.go.jp/tax_policy/brochure1.pdf
  地方税の納付の1年間猶予・固定資産税等の減免について
  [総務省HP https://www.soumu.go.jp/main_content/000681224.pdf
  厚生年金保険料の納付の猶予について
  [厚労省HP https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10382.html]   
  労働保険料の納付の猶予について
  [厚労省HP https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000619179.pdf

売上収入の回復のために手を尽くし、①~⑤その他の支出を最小限に抑える自助努力をもってしても、どこかで手元運転資金が底を尽いてしまうことが予想されるのであれば必ず、そうでなくとも資金繰りに不安が生じる可能性があるのであれば、金融機関から融資を受けて手元資金を確保する必要があります。
また、この融資については、新型コロナウイルスによる影響緩和のための経済対策として、無利子・無担保融資があり、政策金融機関だけでなく、民間金融機関でも対応が始まりましたが、申込が殺到しているため、適時に融資を受けることができないという話も聞きます。少しでも余力が残っているうちに対応していくことが必要です。
なお、経済産業省の資金繰り支援(融資制度)内容(4月14日時点)については、次のサイトで一覧性のある形でまとめられています。
[経産省:https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/shikinguri_list.pdf

長くなりましたので、本稿はこれで終わりにしたいと思いますが、ここでご紹介した内容についてのより詳しい内容と対応方策については、別のコラムで紹介していきます。それより前に知りたい、当社の事情に則した内容で確認したいということがありましたら、いつでもご連絡ください。

この難局を乗り切ることができれば、強固な体質に生まれ変わり、回復期が訪れた時には、飛躍できると信じています。

(弁護士 高橋 弘毅)